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2011年9月の記事

2011年9月16日 (金)

絹の贅沢

『彼女の誕生日』
 volume 11 涙の意味

 

周りを見回してみたが、どこにもいない。

「浅野、美由紀姉達は?」

「私も手元に夢中になってたから・・・。」

首を横に振る。

「あっ!」

ポイを水に浸けていたままだった。

浅野のも破れていた。

とりあえず僕がすくった一匹を袋に入れてもらう。

「お連れさんなら、あっちへ行ったよ。」

 

「待って!」

露店のおじさんが指差す方へ行こうとしたら

腕を掴まれ、引っ張られた。

「あっ・・・、ごめんなさい・・・。」

「いや、大丈夫・・・。」

「・・・下手に捜しまわるより待っていた方が良いと思う。」

「そっか・・・。」

あたりを見回してみる。

割とすぐそばに空いているベンチがあった。

「何か飲み物買ってくるから座っていて。炭酸大丈夫?」

「うん。ありがとう。」

 

露店に向かいながら思いだした。

《モテる、モテないの前に鈍感を直さないとねぇ。》

美由紀姉の言葉。

「鈍感で悪かったな、鈍感で。」

この状況、自惚れじゃないならおそらく・・・。

平静を装い浅野の前へ。

 

「はい、おまたせ。」

「ありがとう。これって何?」

「ラムネだけど?」

「私、ラムネって飲んだ事ない。」

「えっ、ホント?」

「うん。」

「へ~、飲む時気をつけなよ。」

「えっ?あれ?出てこない。」

「(笑)ビー玉をさ、こうやって飲み口に転がってこないように飲む。」

「あ~、ホントだ。(笑)」

僕もだけど、二人きりにされてから固かった

浅野の表情が緩んだ。

だからと言って二人の緊張感が消えた訳じゃない。

ベンチでの二人の微妙な距離が、それを物語っていた。

 

「ねぇ、長野君。ひとつ聞いてもいい?」

「へっ?」

声が裏返ってしまった。

「さっき先輩の家で、何で泣いてたの?」

「え~と・・・、美由、近野先輩と従姉どうしなのは知ってる・・・、よね?」

「うん。」

「家が近所だったって事も?」

「うん。知ってる。」

美由紀姉、なんでも話してんだなぁ。

「親が共働きだったから、夕飯とかよくご馳走になってたりしてたからさ、

なんかその頃を思い出してたら、知らぬ間に涙が出た・・・、らしい。」

「そうなんだ。」

「何かみっともないよな、それくらいでさ。」

「そんなことないよ。」

「えっ?」

「みっともないなんて思わないよ。」

 

 

続く...

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2011年9月 4日 (日)

台風被害は大丈夫?

『彼女の誕生日』
 volume 10 序章

 

通された広間のテーブルの上に料理があった。

料理好きの伯母さんらしく手の込んだ

料理が並んでいる。

「いただきます。」

伯母さんの手料理は久しぶりだ。

相変わらず美味しいと思う。

この味にも小さい頃結構お世話になったなぁ。

 

「あれっ?カズ。何泣いているの?」

美由紀姉に言われて、自分が泣いているのに気づいた。

「あれっ?あれっ?何でだろ?」

慌てて手で頬を拭う。

「やだっ。何でお母さんまで泣いているのぉ?」

見ると伯母さんも泣いていた。

何かおかしな雰囲気になってしまった・・・。

美由紀姉とか伯母さんならともかく

クラスメート等に涙を見られたのは

すごく恥ずかしかった。

 

「あれっ?伯母さん達は行かないの?」

「私達はもう見て来たから若い子達で行ってきなさい。」

伯母さんがそう言うので僕たち4人で行く事にした。

「行ってきます。」

玄関を出て、駅とは反対方向へ向かう。

目指す所はここから歩いて10分位らしい。

近づくにつれて人が多くなったきた。

入口の手前あたりから露店が出ている。

入口を過ぎてしばらく歩くと金魚すくいがあった。

美由紀姉と目が合った。

やる気満々の目をしている。

それと言うのも、小さい頃露店での金魚すくいで

僕に負けてから美由紀姉はやたら勝負を挑んで来てた。

それは美由紀姉が引っ越すまで続いていた。

 

「ったく、相変わらず負けず嫌いなんだからさぁ。」

「カズもでしょ。久々に勝負する?」

「受けて立ちましょ。」

「どうせなら恵子と京子も一緒に四人で勝負しようよ。」

浅野と遠藤が頷く。

それはいいけど、心配事が一つある。

小さい頃、美由紀姉に勝ったのは

美由紀姉がボウズで

僕が一匹すくえただけのことだ。

二人の腕前はドングリの背比べ。

下手をすれば残る二人の方が上手いかも知れない。

 

美由紀姉は僕の横はやりにくいと言って

浅野と遠藤を挿んで一番端に並んだ。

「ヨーイ、スタート!」

美由紀姉の掛け声で勝負が始まった。

やはり僕の腕前は変わってなかった。

と言うか、久々にやった分もっと悪いかも。

でもビリにはなりたくない。

その必死さが叶ったのか、何とか一匹目がすくえた。

「よーし、一匹目!」

美由紀姉はどうかと見た時だった。

「あれっ?」

美由紀姉と遠藤が消えていた・・・。

 

 

続く...

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