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2011年10月の記事

2011年10月30日 (日)

第ニ章へ

『彼女の誕生日』
 volume 15 初めて

 

そこにいたのは

「水谷!」

「よっ。おはよう。」

「よっ、じゃねーよ。なんだよ?」

「なんだよ、は御挨拶だな。こんなとこで何してんだよ?」

「別に、何だっていいじゃんかよ。」

「あっ、そう。それは良いけど今日日直じゃなかったけ?」

 

げっ。そうだった。日誌取りに行かないと。

「サンキュー。一応礼は言っとく。」

「あっ、一応ね・・・。」

こればっかりはしょうがない。

浅野の事は後回しにして職員室に行く。

 

「失礼しま~す。」

挨拶をして職員室を出ようとして

扉を引くと女生徒に出くわした。

「浅野?」

浅野がちょうど通りかかったのだった。

「お、おはよう。」

よかった、いいタイミングで会えた。

あたりに人はいないし。

「おはよう。あのさ、これ・・・。」

小さく畳んだメモを渡す。

「じゃあ。」

「う、うん。」

浅野は職員室に入っていった。

たまには良い事(?)をしてくれる。

水谷に心の中で感謝した。

 

「あれっ?何でいるの?」

しまった、びっくりして間抜けた声になってしまった。

手渡したメモの通り、部活のあとに

待ってもらっていた教室に行った。

扉を開けると、浅野の他にもう一人いた。

遠藤京子だ。

「じゃぁね、長野君。邪魔者は消えますから。」

遠藤はそう言いながら出て行った。

 

浅野とふたりきりになると改めて緊張する。

机を一つはさんで向き合う。

「あのさ・・・」

「ごめんなさい、先に話していい?」

僕の言葉を遮って浅野が話しだした。

「わ、私、あの時気持ちしか言ってなくて肝心な事言ってなかったの・・・。」

「肝心な事?」

「うん。改めて言うね。・・・、好きです。付き合ってください。」

ぺこっと頭を下げる。

「ごめん。」

浅野の肩がぴくっと震えた。

「俺、浅野の事何も知らなくて。一年の時から見ててくれてたんだ。

・・・でも、それでも知らない事がいっぱいあると思う。

それに何より俺が浅野の事知って行きたい。」

「えっ?」

浅野が顔を上げて僕を見る。

「この間も美由紀姉にも言われたけど鈍感だし、

付き合っていくうちに困らせたり、泣かせたりするかも

知れないけど、それでも良いなら・・・。」

「・・・それでも良いなら?」

「いいよ、浅野。付き合っても。こちらこそよろしくお願いします。」

顔を上げると浅野が両手で顔を覆って僕を見ていた。

両眼からは涙が・・・。

小さい頃から女の子の涙は幾度も見て来た。

だけど、こんなにもいとおしく思える涙が

あることを今日初めて知った。

 

 

続く...

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2011年10月26日 (水)

まだまだ5月篇

『彼女の誕生日』
 volume 14 緊張

 

ジリジリと目覚まし時計が鳴る。

連休明け、いつものように学校へ行く朝が来た。

ちょうど一ヶ月前の朝の僕は気が重かった。

今日の僕と言えば・・・、すげー緊張している。

 

あの日の夜、僕は美由紀姉の部屋にいた。

浅野の話をするかと思いきや

美由紀姉は多くを語らなかった。

結論は聞かないけど今の思いを

そのまま伝えればいいと思うと言われた。

いろいろ話を聞いて、また悩まれても困るってことらしい。

ただ、改めて「いい子だよ。」とは言われた。

 

その夜、客間の布団の上で僕は悩んでいた。

いや、返事に悩んでいた訳じゃない。

結論は喫茶店での話で決めたままだ。

問題はどう呼び出すか。

前回は一年同じクラスだったから

行動パターンも何となく分かっていたし。

と、言うか由香と同じ部活で僕の友達(男)に

頼んで呼び出してもらったのがホントウのところ。

でも浅野の事は・・・。

一年の時の写真クラブは週一だったし、

例の僕が優しいって話を聞くまでは

気に留めていなかった。

ましてや、同じクラスになってから一ヶ月しか

経っていない。

誰かに頼んでって言っても、訳を知っているのは

浅野の友達の遠藤京子だけ。

おまけに女子クラスなので行きづらいし。

と、言うかそんな二度手間必要ないし。

それより、一人忘れていないか?

って言われそうだけど、

「私は協力しないよ。」

頼みの綱の美由紀姉には、あっさり断られた。

「えっ?何でさ?」

「そう言う事は自分で考えなさい。」

それに

「恵子への返事なんだから、私が先に聞くべきじゃないし。」

って、僕の結論も結局聞かなかったし。

 

結局、自分で何とかすることにし、いつもより15分

早く学校に行った。

僕の部活は朝練がないのが救いだ。

校舎から体育館への連絡通路に立つ。

ここからなら正門から登校してくる生徒が見える。

だけど他にも校門が二つ・・・。

浅野が正門から入るのを懸けるしかない。

しかし、浅野はなかなか来ない。

もしかして他の門から?

 

「あの子、浅野か?」

人ごみの中に浅野らしき子を見つけた。

通路の下に来たので覗き込んで確かめる。

「うゎっ。」

いきなり膝カックンをされた。

慌てて後ろを向くと、そこにいたのは・・・。

 

 

続く...

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2011年10月18日 (火)

リンダリンダ

『彼女の誕生日』
 volume 13 決心

 

「で?どうするのかな?」

「どうするって・・・。」

「ちょっとそこに入ろうか?」

美由紀姉が駅前の喫茶店を指差す。

席はカウンターも含め結構埋まっていたが

奥の方が空いていた。

僕はアイスコーヒー、美由紀姉はクリームソーダを頼む。

「へぇ~、グラスじゃないんだ。」

金属のマグカップが来た。

「ソーダの方も珍しいから。」

美由紀姉が期待しろと言う。

「へぇ~。」

出て来たのはブーツ型のグラスだった。

 

「さて、本題に入ろうか。と、その前に・・・ごめんなさい!」

店員が去った後、美由紀姉が頭を下げた。

「偶然会ったって言うのは嘘なの。」

「あぁ、やっぱりな。」

「気づいてたんだ。」

「美由紀姉達が居なくなった時、何となく。」

「そうなんだ。それで・・・怒ってる?」

「いや、その事は別に良いんだけど・・・。」

 

「まだ好きなの?彼女の事。」

しばらくの沈黙のあとストローでグラスの氷を

かき混ぜながら美由紀姉が聞いてきた。

そうだ、名前までは教えてなかったけど

美由紀姉には話していたんだっけ、由香の事は。

「・・・。」

「んっ?」

「改めて聞かれると・・・、どうなんだろう?」

「どうなんだろうって?」

「そう言えば、ここのところ考えてもなかった。」

本当にそうだった。

由香の事は忘れていた?ような気がする。

もしかしたら浅野の事を気にしていたからかも知れない。

そうだ、さっきのあの事を聞いてみるか。

「あのさ、美由紀姉に聞きたい事があるんだけど?」

「何?」

浅野が内緒だと言ってた事を聞いてみたが

「恵子が内緒と言ったんでしょ?だから教えな~い。」

クスッと笑いながらあっさりかわされた。

 

「で、どうするの?」

急に真顔になって、僕を見つめて聞いてくる。

「どうしようか・・・。」

「何か煮え切らないね。」

そんなこと言ったって、女の子から

告白なんかされたの初めてだし・・・。

「良い子だよ、恵子。付き合ってみれば?」

「・・・。」

正直、付き合うって言う事が僕はよく分かってないと思う。

前に由香に好きだと言った時でさえ

告白するのにいっぱいいっぱいで

その後の事は考える余裕がなかった。

「ねぇ?」

「・・・。」

「もう!そんなんじゃ、せっかく・・・」

続きの言葉を飲み込んで美由紀姉は黙ってしまった。

「せっかく何?」

続きをうながすと

美由紀姉の左の眼から一筋の涙が。

続けて右の眼からも。

「美由紀姉・・・。」

「・・・せっかく恵子が頑張ったのに。

どっちにしろ、ちゃんと応えてあげて。」

 

美由紀姉にハンカチを渡しながら

僕は決心をした。

連休明けにその気持ちを浅野に伝えよう。

それでいいよねと言ったら美由紀姉は

涙を拭きながら、ほんの少し笑った。

 

 

続く...

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2011年10月 5日 (水)

朝晩冷えるね〜

『彼女の誕生日』
 volume 12 たった一言

 

「みっともないなんて思わないよ。」

「・・・。」

「優しい涙だから・・・、いいの。」

「浅野・・・。」

「ご、ごめんね。生意気なこと言って・・・。」

「いや・・・、ありがとう。」

「そう?よかった。」

「・・・じゃ、俺もひとつ聞いてもいい・・・かな?」

「なに?」

「あ、あのさ人づてに俺が優しいって・・・、何で?」

足下に落としていた視線を浅野は僕に向けた。

そのままじっと僕を見つめる。

「な、何?」

意外と綺麗な眼にドキッとする。

「やっぱり、近野先輩が言った通りだ。」

ふいにクスッと笑って浅野が言った。

「えっ?えっ?美由紀姉が何だって?」

「ナーイショ。」

 

そう言ったあと浅野は下を向いて黙り込んでしまった。

「・・・。」

「浅野・・・?」

「あ、あのね長野君・・・。」

「は、はい。」

「あのね・・・。」

「うん・・・。」

「・・・今日はありがとう。」

「えっ?あっ、うん。」

「・・・」

「・・・ごめんね、本当にごめんね!」

「えっ?あっ、おい!」

いきなり立ち上がり走り出した。

「恵子っ!」

腕を掴んで止めた・・・・・のは

ちょうど戻ってきた美由紀姉だった。

 

「おっと。」

つまづいてころびそうになって思わず声が出てしまった。

前を歩く三人・・・、と言うか浅野の後ろ姿を

見たまま歩いていたからだ。

僕のそんな声に気づかない程、僕は離れて歩いていた。

あのあと浅野は美由紀姉と二人離れて話していたが

僕とは一言も喋っていない。

「あっ。」

三人が角を曲がった。

そう言えば、その先はもう駅だ。

慌てて僕も角を曲がった途端、ドキッとした。

角を曲がった先に浅野がこちらを向いて立っていたからだ。

 

「長野君・・・。」

「は、はい。」

「・・・好き。」

あっと言う間だった。

たった一言それだけ言うと、くるりと向きを変え

その先にいた遠藤、駅へと走っていった。

茫然としている僕の横にいつの間にか来た

美由紀姉が僕の頭を小突く。

 

「で?どうするのかな?」

 

 

続く...

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