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2011年11月 6日 (日)

携帯もなければインターネットもない時代

『彼女の誕生日』
 volume 16 雨の物語

 

「じゃ、待ってるね。」

「んっ。」

付き合いだしてから、浅野は僕の部活(軟式テニス)が終わるのを

図書室で待っている。

部活が終わったら、図書室に迎えに行って

一緒に帰るのが日課になった。

と、言っても部活のある月・水・金の週3日で毎日じゃない。

それ以外の日は、浅野は友達と帰っていた。

友達も大事にしたいからと浅野は言った。

それなら逆にした方が待たなくていいんじゃないのと

聞いたことがあったけど、本を読んだり

僕がコートにいる姿を眺めたりして待つのが

好きだからと照れくさそうに話してくれた。

そんなことを聞くまで気付かなかったが

図書室からコートが見えるらしい。

「じゃ下手な事出来ないじゃん。」

「下手な事?それってラケットを折った事?」

悪戯っ子みたいな眼をして、クスクス笑いながら聞いてくる。

「えっ?見てたの?」

「うん。スマッシュした時でしょ。」

「まぁ、それはですね・・・、汗で手が滑ってですね・・・」

「何で敬語になってんの?」

大笑いされた。

 

何気ない帰りの会話のやり取りも、始まりは浅野から

渡された小さな手紙だった。

“今日、部活終わるまで図書室で待っててもいい?”

それは僕が渡した四つに畳んだだけのものじゃなく

一枚の紙を折って封がしてあるような感じのものだった。

「へぇ~、こんな折り方もあるんだ。」

それからは僕も浅野の真似をして手紙を折って渡した。

お互い電話で長話が出来ない家庭環境ゆえ

控えめで小さかった手紙も、書く量も増え

だんだん大きくなっていった。

若干人見知り、でも慣れれば陽気で少しドジなところも。

一ヶ月前までは知らなかった浅野の事。

それに伴い少しづつ近くに感じられていく。

付き合うってこういう事なんだなぁと思った。

でも浅野はどう思っているんだろう。

「ナーイショ。」

笑いながら躱された。

 

「やべっ、降って来た。」

六月始めの部活の日。

終わり間近に雨が降って来た。

天気予報で降るって言ってたので、傘の心配はないが

道具が濡れるので慌てて片付ける。

濡れた髪を拭き着替えて図書室に向かう。

「おまたせ。帰ろうか。」

「うん。雨、降って来たね。」

そう言えば、一緒に帰る日じゃ初めての雨か。

 

階段を下りて下駄箱に向かう途中で

浅野の手元に傘がないのに気付いた。

「あれっ?傘は?」

なんて、一ヶ月前の僕なら聞いているだろう。

それでもって美由紀姉に“鈍感”って言われるのだ。

でも、気付いたとき咄嗟に言葉にしなかったのは

少しは僕も成長している(?)んだろう。

照れ臭さを隠しつつ傘を開きさしかけると

はにかんだ笑顔で傘に入って来た。

 

 

続く...

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コメント

そういえば、昔は彼女と相合傘で良く帰ったものです・・・。lovely

軽く鼻をくすぐる彼女の髪の匂いがとても好きでしたね・・・。happy02

投稿: 昔のはーちゃん | 2011年11月13日 (日) 07時58分

昔のはーちゃん

シャンプーのにおいとかね。( ̄ー ̄)

投稿: のあ | 2011年11月20日 (日) 21時51分

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